
RAIN
第5章 名前《翔side》
俺が傘を受け取ったのを確認した彼は、安堵の息を微かに吐き、「それじゃ……」と告げ、足を動かしはじめた。
「ま、待ってください!」
彼が俺から離れていくのを見て、とっさに声をあげる。
俺の切実とも取れる声音に彼が止まり、警戒するような顔付きで、俺から次に発する言葉を待つ。
「あの……、名前を教えてください」
引き止めた理由としては少々物足りないが、俺はなんとしても彼から離れたくなかった。これで終わりだなんて考えたくなかった。
だけどそれはあまりにもあからさまだったと後悔する。突然名前を教えろと言われても、簡単に教えるほどの間柄じゃない。ましてや昨日今日と会ったばかりの相手に、どうしてやすやすと名乗れるか。そりゃあ彼じゃなくても警戒するに決まってる。
浅はかなことを口走ったと後悔するも、それでも貴方の名前を知りたいと望む気持ちは消え失せはしない。
このままで終わりたくない。彼への慕情が未練を深くさせる。
「突然ごめんなさい。俺の名前は神崎翔っていいます。よければ……貴方の名前も聞かせてくれませんか?」
図々しいと思っただろうか?
だけどこれで終わりだなんて嫌だ。だから繋がりを持ちたかった。少しでも一緒にいたい。
彼はしばらく沈黙を守っていた。その沈黙が俺には長く感じて、それは一種の拷問にも似ていた。
彼が俺から瞳を外し、地面へと伏せた。彼の中で何かが葛藤している。それが何なのか、俺がわかろうはずもなかったけど……。
「俺の名は……──」
沈黙を破った彼の口から放たれたのは、俺が望む返事だった。
「……北条拓海(ホウジョウタクミ)……」
小さく、だけど俺の耳にしっかりと届いた。
「ま、待ってください!」
彼が俺から離れていくのを見て、とっさに声をあげる。
俺の切実とも取れる声音に彼が止まり、警戒するような顔付きで、俺から次に発する言葉を待つ。
「あの……、名前を教えてください」
引き止めた理由としては少々物足りないが、俺はなんとしても彼から離れたくなかった。これで終わりだなんて考えたくなかった。
だけどそれはあまりにもあからさまだったと後悔する。突然名前を教えろと言われても、簡単に教えるほどの間柄じゃない。ましてや昨日今日と会ったばかりの相手に、どうしてやすやすと名乗れるか。そりゃあ彼じゃなくても警戒するに決まってる。
浅はかなことを口走ったと後悔するも、それでも貴方の名前を知りたいと望む気持ちは消え失せはしない。
このままで終わりたくない。彼への慕情が未練を深くさせる。
「突然ごめんなさい。俺の名前は神崎翔っていいます。よければ……貴方の名前も聞かせてくれませんか?」
図々しいと思っただろうか?
だけどこれで終わりだなんて嫌だ。だから繋がりを持ちたかった。少しでも一緒にいたい。
彼はしばらく沈黙を守っていた。その沈黙が俺には長く感じて、それは一種の拷問にも似ていた。
彼が俺から瞳を外し、地面へと伏せた。彼の中で何かが葛藤している。それが何なのか、俺がわかろうはずもなかったけど……。
「俺の名は……──」
沈黙を破った彼の口から放たれたのは、俺が望む返事だった。
「……北条拓海(ホウジョウタクミ)……」
小さく、だけど俺の耳にしっかりと届いた。
