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RAIN

第6章 拒絶《拓海side》

そうだ、神崎くんを巻き込んではいけない。彼を不幸にさせてはいけない。だから今のうちに距離を置かなければならない。今ならまだ間に合う。はっきりと拒絶して、そして俺たちは赤の他人に戻る。



「傘を貸してくれたことは感謝する。だけど迷惑なんだ。……もう礼はしたはずだ。だからこれ以上俺に付き纏わないでほしい……」

わざと傷付ける言葉を選ぶ。

「待って……待ってください! 俺、拓海さんに何か失礼なことをしてしまったんですか? 何かいけないことを言ってしまったんですか? もしそうなら謝ります! ……俺、頭悪いから相手が嫌がってることとか全然気づかなくて……。だからもし嫌な思いをさせてしまったんなら謝ります。ごめんなさい!」
必死に謝罪する神崎くんに胸が締め付けられる。

違うんだ。違うと伝えたい。これは俺の勝手な決断なんだと伝えられたら、少しは気が楽になるだろうか?

だけど貫かなければならない。彼が諦めるまで、そして俺に幻滅するまで俺は辛辣な言葉を紡ぎ続けなければならない。
「もう……いい加減にしてくれないか? 迷惑なんだ……」


神崎くんの口が微かに震えている。目の端に入る神崎くんの傷心した姿に、俺は罪悪感を抱きながらもそれを無理矢理に押し込み、悪人を演じきろうと叱咤する。

神崎くんを避けるように瞑目してから、これ以上彼に猶予を与えまいと駆け出して行く。
潤んだ瞳で俺を呼び止めようとする神崎くんの視線を強く感じながらも、俺は拒否した。



神崎くんから逃れるように全力で走り、途中から体力がきれ、歩へと変更してバイト先へと向かう。


辛そうに眉間を寄せ、泣き入りそうな神崎くんの残像が鮮明に残り、俺は両手を強く握りしめる。


……これでいい、これでいいんだと無理矢理に結果を出す。
彼が俺に友好的な好意を向けてくれているのは態度から感じ取れた。本心は嬉しいと思う。
だけど彼の好意を受け入れてはいけないのだ。彼を不幸に陥落させてはいけない。何があっても。


“死神”は所詮、誰とも相入れられないのだ。
もうこれ以上犠牲者を出す訳にはいかない。そのために俺はこの地まで逃れてきたのだから。



――……そうだろ、和磨……――




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