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夢幻の蜃気楼

第4章 “蒼き魔王”

何の前触れもなく、突然解放された髑髏のピアスをした男は面食らいながらも、階段を駆け下りようと足を一歩前に進めた途端、急激に彼は前のめりになり、そのまま階段に転げ落ちた。少年が背後から右足をあげて男の背中を思い切り蹴り上げたからだ。

「うわっっ……!!?」
男の短い悲鳴と、どんっ、と落下してきた身体とコンクリートに当たった音に、少年抜かして、僕たちは目を見張るしかなかった。

何があったか思考がストップしていた。何が起こっているのか、未だに僕は現状を理解するまでに至ってはいなかった。
なんせ僕が十八年間生きてきた中で、こんな場面に出くわしたことがない。それは映画やドラマなどのスクリーンの中や、漫画などといった誰かが創り上げた世界でしか見たことがない。


僕たちの前へと落ちてきた男の反応は全くない。ピクリとも動かない男に、相棒である赤毛男が恐ろしいものに遭遇したような、恐る恐る相棒の元へと近づいていく。
「おい、大丈夫か?」
さっきまで髑髏のピアスをした男を顎で使い、命令していた同一人物とは思えないほど、今は相棒の身を案じている姿がそこにあった。
動かない相棒の姿に、今まで強気な態度を維持していた男は明らかに困惑と動揺へと顔を歪め、ただ気を失っている男を起こそうと必死になっていた。こうなると僕にひどいことをしようとしていた相手だけど、少しばかり同情してしまう。


「…………うぅっ……」
だが地べたに突っ伏していた男から、微かなうめき声が聞こえてきた。
「おい、生きてるんだな!?」
赤毛男の呼び声に、薄くだが反応を返してきた。
うめき声は徐々に増し、その数秒後には目蓋が動いた。
「しっかりしろ!」
相棒がやっと動きをみせたことに安堵の息をあげた男は、相棒の覚醒を見守っていた。



「ま、そう簡単に死にゃあしないだろうけど、早く病院に診てもらった方がいいかもな」
再び上から少年の声が飛んできた。


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