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夢幻の蜃気楼

第5章 違和感

つい声を出してしまったけど、彼に何を期待していたのか。あまりにも図々しいと自分でも思う。彼に縋ろうなんて、あまりにも図々しい。

僕の小声をしっかりと聞こえていたらしい彼が振り返る。振り返った彼の表情は怪訝なそのもの。その表情に僕は余計に立場がないと立ち竦むしかなかった。
おそらく僕が次の言葉を発するのを待っていたのだろう彼はしばらく振り返ったままの体制だったが、僕から一向にリアクションがないことに痺れを切らしたのか、再び向きを変え、今さっき僕と向かい合った位置まで戻ってきてしまった。
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言え」
少し苛立っているようにみえる。

彼が只者ではないのはあの二人の怯えた様子から窺えた。だからこそ彼に縋っていいのか戸惑ってしまうのだ。
けれどここが僕の知っている世界と微妙に違うのならば、僕は帰る家がない。だとしたら無力な僕はここで途方にくれるしかない。下手すれば僕の命は風前の灯と称しても大袈裟ではないだろう。自分で未知なる世界を切り拓く知恵も勇気もない。
「……帰る家がないんだ」
意を決して訴える。

僕の自白を彼は意味が掴めないと固まっていたようだ。言葉を忘れたように口をあけていながら、声を発することはない。
だけど彼なりに理解しようと妥協したのか、彼はふぅーっと息を吐いた。
「家出か? ……まぁとにかくだ」

……どうも誤解されたようだ。
「ち、違……」
慌てて否定する。
「とにかく行くぞ」
僕の言葉を聞かず、少年は僕の右手を掴んだ。

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