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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 どれくらい走っただろう。
 二人を乗せた白馬は、やがて都の町並みを抜けた。周囲も人家がまばらになり、更には、家らしい家は見当たらず、遠くにくっきりとそびえ立つ山々が臨めるようになった。
 準基が突如として馬を止めた。
 白馬が鋭い嘶きを上げ、前脚を高々と持ち上げて止まる。
 浄蓮は息を呑んだ。
 眼の前に、露草の群生する野原がひらけている。蒼い花は小さな精霊がそっと落とした涙の雫のよう。
 都を出て、一刻、町のすぐ近くに、こんな場所があるなんて知らなかった。
「素敵だわ」
 思わず呟いた浄蓮をちらりと見、準基が優しい笑みを浮かべた。
「なかなかの眺めだろう? 露草なんて、どこにでも見かける―それこそ道端の雑草にすぎないが、こうして群れ咲いている様を見れば、なかなかどうして、大輪の花一輪にも及ばない見事さだ」
 浄蓮は何度も頷きながら、感嘆の想いを込めて蒼色の可憐な花が群がる野原を眺め渡す。
「漢陽生まれの漢陽育ちなのに、すぐ近くにこんな素敵な場所があるなんて、ちっとも知りませんでした」
 浄蓮が嬉しそうなので、準基もまた満足そうにしている。
「一度だけだが、兄が連れてきてくれたことがある」
「お兄さま? 若さまには、お兄さまがいらっしゃるのですか?」
「うん」
 準基は笑顔で頷いた。
 本当に心の底から嬉しいと言わんばかりの笑顔に、浄蓮の胸が高鳴った。きっと兄のことが大好きで堪らないのだろう。

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