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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 そう、かつて自分自身が兄明賢を慕っていたように。
「お兄さまをお好きなのですね」
 心に感じたままを口にすると、準基が笑う。
「ああ、好きというよりは、敬愛しているといった方が良いかもしれない」
「敬愛、ですか?」
「そう。文字で書いたとおり、尊敬している。兄上は本当に色々なことをご存じだ。私など、到底、脚許にも及ばないほどの博識家でね」
「何だか、若さまが少し羨ましいです」
 これも偽りのない本音だった。
 準基が愕いたように浄蓮を見た。
「羨ましい? それはまた、どうして?」
「―私にも兄がいたのです。もう、亡くなりましたけど」
 その事実に、準基は愕然としたようだった。
「浄蓮に兄上が? それは初耳だ。私が聞いたのは、そなたの父上が亡くなり、母上も後を追うように亡くなったため、生活の目処が立たなくなって妓房に入ったと」
「よくご存じなのですね」
 いや、と、準基は頬を赤らめた。
「別に、そなたの素姓を詮索したわけではない。いや、正直言えば、そなたのことを少しでも知りたかった。どこから来て、何をしていたのか。父御や母御はどんな方だったのかまで、そなたのことなら何でも知りたいと思って、翠月楼の妓生に色々と訊き出したのだ」
 浄蓮はうつむいた。
「兄がいたことは、女将さんにも話してはいませんから」
 女将だけは、浄蓮が実は男だと知っているが、しかし、彼女だとて、浄蓮が右議政の息子であったとは知らない。身の上はただ落ちぶれた両班の息子だとしか告げていない。

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