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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

 もちろん、この若者もその父親はそこそこの官職についている両班だ。
 と、ファンジョンがふと、思いついたような口調で言った。
「何なら、厠についていってやろうか? そういえば。俺も丁度厠に行きたくなっていたところだ。二人で共に厠に行こうではないか? そうすれば、いっそのこと、女将も腹を括ってお前を妓生として見世に出す覚悟を決めるやも知れぬ」
「そいつは良い、やれやれ、ファンジョン。麗しの浄連と厠でやっちまえ」
 無責任な野次が方々から飛んだ。
 あまりの屈辱に、浄連は身の内がカッと熱くなるのを感じた。
 この男たちは、ファンジョンに厠で浄連を抱けと唆しているのだ。そして、その馬鹿げた非人道的な行為を真っ先に思いついたのは他ならぬファンジョンであった。
「何だ、可愛らしい綺麗な顔が真っ青だぞ? そうか、流石に初めて男に抱かれる場所としては、厠では嫌なのか? だが、安堵しろ。たとえ女になるのは厠の中であっても、これ以後は、お前にふさわしい豪奢な屋敷を用意してやろう。俺のものになれば、正室は無理でも、側室として都のどこぞに屋敷を与えて栄耀栄華をさせてやる」
 この男は囲い者になれと言っているのだ―。口惜しさに身体が燃えるように熱くなる。この男をすぐに殴り飛ばしてやりたいと思ったが、大切な客、しかも領議政の息子とあっては手出しできるはずもない。
 貴様の父親が我が父上を殺したのだ―!
 浄連は両脇に垂らした拳が白くなるまで力を込めた。
 そう、ファンジョンの父、現在の領議政梁(ヤン)君子(グンジヤ)が浄連の父である申(シン)潤(ユン)俊(ジユン)を空恐ろしい謀によって陥れ、殺害したのは六年、正確にはもう七年近くも前になる。当時、潤俊は右議(ウィ)政(ジヨン)の重職にあり忠臣中の忠臣と謳われたほど国王の憶えもめでたかった。
 国の重大事からはたまた、寵妃の位階を昇進させるといったごく私的なことまで、右議政に相談するほどの王の信頼ぶりに、朝廷の臣下たちは一様に不安を抱いていた。

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