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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 ジスンは沈痛な面持ちで浄蓮に告げた。
「ひと月前といえば、丁度、準基が倒れた頃、あなたがあいつと逢ったというのなら、その前でしょう。私自身、あまり詳しい事情は知らんのですが、兄上にお聞きしたところによれば、一ヵ月前、昼前にふらりと屋敷を出たと思っていたら、夜になるまでずっと帰ってこなかった日があったそうです。その翌朝から高熱を出して寝込み、医者を呼んで高価な薬も試してみたそうですが、数日後に甲斐なく亡くなりました。兄上の話では、どうも、雨に打たれたのが原因で風邪を引き、こじらせたらしいと」
 その刹那、浄蓮は恐怖の波に呑み込まれそうになり、必死に押し流されそうになる自分を押しとどめた。
 ジスンは気の毒そうに浄蓮を見た。見かけは無骨そうだが、案外に優しい男なのだろう。
「あなたが準基とは特に親しかったらしいというので、私が兄上に呼ばれ、翠月楼に行って事の次第を伝えて欲しいと頼まれました。本当なら、兄上自身が訪れたかったのだが、寝たきりの身ではそれもままならず、文にしたためるには、あまりに哀しい出来事で筆が一向に進まないと仰せで」
 ジスンは朴訥な質らしく、訥々と語った。
 浄蓮と準基の関係を〝特に親しかった〟と形容する際も、取り立てて表情を変えるわけでもなく、詮索めいた好奇心は微塵も窺えなかった。
 成均館の寮で生活している彼の許に準基の兄ミンソンから連絡がいったのは数日前のことだという。
「成均館に入ってからは外に出る機会も少なく、準基との交流もあまりなかったのです。たまに外で逢って、お互いに本の貸し借りをするくらいでした」
 そのため、ジスン自身もこの幼なじみの死を全く知らず、いきなりミンソンに呼びつけられて告げられたときは、愕きのあまり声も出なかった有り様だと語った。

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