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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第6章 終焉

「あ―」
 浄連はふいに手のひらで口許を押さえ、絶句した。
 浄連の黒い瞳から熱い雫がしたたり落ちる。
 浄連は泣きながら首を振った。
 準基さま、俺は今、あなたのおっしゃった意味が漸く判ったような気がします。
 大切な人が死んでも、その生命と想いを受け継ぐことで、その人と共にずっと生き続けることができるのだと言ったあの男。
 大切な人を失った直後は、到底そのような約束はたとえ準基の望みであろうとできはしないと思ったものだったけれど。
 浄連の最愛の恋人はそう言い残したかったのではないだろうか。
 ここに来れば、準基の声を聞くことができる。池の面を渡る風の中に愛しい男の声を聞き、白い清かな花たちの向こうに、恋しい人の面影を見られる。
 二人の共有するたった一つの想い出の場所に来れば、準基を忍ぶことができる。
 それなら、若(トル)さま(ニム)、俺はもう嘆き哀しむのは止めた方が良いのですね?
 浄連はその時、きっぱりと未練を棄てた。
 浄連は存外に素早い身のこなしで立ち上がった。
 昔から迷うのは嫌いだった。落ち込みはするが、ひと度、こうと決めたなら後ろは振り向かずひたすら前へと突き進むのが性に合っている。
 もう、泣かないと決めたのだ。だから、あの方を想って涙を流すのは、これが最後。
 せめて、もう一度だけ、あの方と共に眺めた蓮の花を見て、この眼に灼きつけておきたい。
 浄連は思わず後ろを振り向きそうになり、寸でのところで己を押しとどめた。
 爽やかな風が身の傍を吹き通っていった。
 背後でかすかに花びらの触れ合う音が響き、浄連は何かを強く自分に言い聞かせるかのような表情で眼を閉じた。

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