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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第6章 終焉

 朝鮮王朝後期、朝鮮一と呼ばれた名妓、傾城香月という妓生がいた。〝傾城〟という呼び名は、文字どおり、一国を傾けるほどの妖艶な美貌を指し、事実、時の国王がこの稀代の美姫の名声を聞き、是非にと後宮入りを熱望したという逸話がある。
 香月は国王直々の使者を三度とも追い返し、国王に
―朝鮮一の男たる予をふるとは、流石は天下一の妓生と謳われるだけはある。
 と、咎められるどころか、お誉めの言葉と数々の宝玉を賜った。以後、〝国王さまのお心すら動かした朝鮮一の妓生〟と、香月の評判はますます高まることになった。
 香月は指名されても、たとえ相手が大臣であろうが都いちばんの豪商であろうが、その客が気に入らなければ、平然と断ったという。客に選ばれるのではなく、客を選ぶことのできる稀有な妓生であった。
 また、それだけのことができたのは、彼女が真に名妓と呼ばれるだけの器を備えていたからでもあった。舞、楽、詩歌、どれをとっても当代一流といわれるほどの腕を見せた。中期に活躍したかの名妓黄真伊(ファンジニ)に匹敵するといわれるほどの妓生である。
 身体を売ることを良しとせず、芸に生き、ついには朝鮮一の妓生と謳われるようになった香月の若い頃は意外と知られていない。
  (了)

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