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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

 英真に半端でない女装癖があるのは秀龍も知っていたはずではあったけれど、しかし、単に女の格好が好きなのと、妓生になるのとは訳が違う。大体、妓生は客に抱かれる宿命にある娼婦なのだ。そちら(衆道)の方面の趣味があるのならともかく、男の身体を持つ妓生に真っ当な客が満足するはずがない。
 つまり、男の身で妓生になるなど、土台無理というか、あまりにも荒唐無稽な話なのだ。
 英真は秀龍の猛反対を押し切って、家を出ていった。
―私はお前の兄と、明賢と約束したんだ。必ず英真を守ると。なのに、男のお前がむざむざ妓生になるのを黙って見ているなどできないし、あの世の明賢に顔向けできるはずがない。もし、お前がどうしてもここを出てゆくというのなら、先に私を殺してからゆけ。
 身をもってゆく手を塞ごうとした義兄を哀しげに見つめ、英真は首を振った。
―兄貴、俺に兄貴は殺せない。兄貴はそれを知っていて、そんなことを言うんだ。狡いよ。
 英真が秀龍の肩をそっと押すと、秀龍は呆気ないほどすっと横に避けた。
 あの時、秀龍も判っていたのだろう。たとえ今は止めても、いずれ英真が自分の決めた道を進むに違いないことを知っていたのだ。
 だからこそ、英真を黙って行かせたのだ。
 もしかしたら、狡いのは自分だったかもしれない。秀龍が自分を止められないのを知っていて、妓生になるなどと爆弾発言をしたのだから。
 秀龍は英真が名前とそれまでの生き方をすべて棄て、浄連となって翠月楼で働くようになっても、まだ時折、顔を見にくる。女将や他の妓生たちの手前、昔、秀龍の父と浄蓮の父親同士が親しく付き合っていたと言い繕ってはいるものの、彼女たちが秀龍を浄連の身分違いの恋人だと勘違いしているのは明白だ。ここでは、浄蓮は零落した下級両班の娘という触れ込みになっている。
 実際、容姿端麗で物腰もやわらかな秀龍は、他の妓生たちにも人気があった。もっとも、秀龍は翠月楼には浄連の顔を見に来るだけで、妓生には見向きもしないのだが。

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