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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第1章 序章

―何故、蓮の花は濁った泥の中から、このように美しい花を咲かせられるのだろう。
 あのときの準基の言葉がふいに耳奥で甦った。
―濁世に開いた一輪の名花。まるで、そなたのようだ。
 あの瞬間、浄連は咄嗟にどう応えて良いか判らなかった。これが準基ではなく、その他大勢の男であれば、常のように訳知り顔で〝お世辞をおっしゃっても、何も出ませんよ〟とそつなく平然とやり過ごしたことだろう。
 だが、準基相手だと、そうもいかなかった。不思議なことに、このお坊ちゃんを前にすると、浄連はいつも他の客を良いようにあしらうのとは勝手が違った。
―難しいお話は、女の私には判りません。
 自分を蓮の花のようだと言った準基に、浄連はあどけないとさえいえる笑みで応えるのが精一杯であった。
 むろん、そのような言葉の意味一つ判らぬ愚か者ではない。これでも、両班の端くれとして生まれ育ち、当時としては与えられるだけの最高の教育を受けてきたのだ。難しげな漢字の並んだ分厚い書物でもすらすらと読みこなせる自信はある。
 もっとも、勉強そのものはあまり好きとは言えず、外を駆け回る方が性に合っていた。どちらかといえば物静かで読書好きな兄とは正反対で、よく父に叱られたものだ。
 小首を傾げた浄連を見て、準基は少し眩しげに眼を細めた。
―艶やかでいながら、無垢なところさえも似ている。私には、出逢ったそのときから、ずっと、そなたがこの蓮の花のように思えてならないよ。
 また風が、吹く。
 緩やかな夏の風が浄連の傍を通り過ぎ、白い頬に落ちたひと房の髪を揺らしてゆく。
 すべらかな頬を熱い涙がゆっくりと流れ落ちていった。
 準基が逝ってしまったそのときから、浄連にとってのたった一つの真実はなくなった。

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