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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

 別室で着替え、自分で化粧を済ませてから現れた浄蓮をひとめ見、女将は息を呑んだ。
 これほど美しい妓生は見たことはなかった。いや、単に美しい娘なら、商売柄、数え切れないほど見た。しかし、眼前の娘は美しだけではない。華があるとでも言うのだろうか、それは、けして誰でもが持てるわけではない圧倒的存在感とも言い換えられた。まさに花開く直前の大輪の牡丹、或いは緋薔薇。
 安物の衣装を纏っても下品にならず、むしろ衣装すら上物だと思わせてしまうほどの気品と優美さはけして付け焼き刃なものではなく、生まれながらに備わったものだと判る。
 何より妓生に必要な零れんばかりの色香、妖艶さがこの娘にはあった。かといって、男に媚びるような下卑た、ともすれば触れなば落ちんような物欲しげな艶めかしさではない。
 品位を落とさない程度にというのは少し妙な表現かもしれないが、滴るほどの色香がありながら、全く下品ではない。それでいて、まなざし一つ動かしただけ、指先で髪をかき上げただけの何げない仕種が思わず鳥肌立つほど官能的だ。
―この子はいけるかもしれない。
 妓生姿の浄蓮を見た瞬間、女将が内心は浄蓮を翠月楼に置いてみても良いと思ったのは間違いない。
 浄蓮には女将にこの姿を披露する前から、その自信があった。ただ市井の少女のなりをしているだけでも十分に美しかったものの、それでは説得力に欠けるのは当たり前。妓房の女将に雇って貰いたいのなら、やはり妓生の格好をして、これなら使えそうだと認めて貰うしかない。
―お前は今、私にその艶姿を見せれば、私がその気になると思っていたね? それだけの気骨と機転があるのなら、十分ここでもやってゆける。妓生に必要なのは、何より客の心を掴み、常に一歩先んずること。かといって、けしてその気持ちが表に出てはいけない。表はあくまでも従順に慎ましく控えながら、裏では男を手玉に取る。お前なら、難なくやってのけるだろうよ。

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