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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

 が、女将は浄連の頼みを聞き入れてはくれなかった―どころか、危うく追い出されるところだった。それは当然のことだ。浄連は、我が身の秘密を最初から隠そうとはしなかった。隠したところで、女ばかりが暮らす妓房でそう長い間、自身が男であるという身体の秘密を隠し通せるとは思えなかったからだ。
 とはいえ、女将という廓内での責任者、権力者を味方につけることができるならば、あながち男の自分でも妓生としてやってゆくことも不可能ではないだろうとも踏んでいた。
 廓の妓生(おんな)たちは女将を〝お義母(かあ)さん〟と呼ぶ。ここでは、女将は妓生たちにとって雇い主であると共に母代わりでもあるのだ。
 翠月楼の女将杉(サム)月(ウォル)は遊女屋の女主人としてはまだ情のある方だ。女将の中には抱える妓生たちをただの商品としてしか見ない輩も多い。身体を酷使させるだけ酷使させておいて、いざ病気となれば、ろくに養生もさせず薄暗い部屋に押し込めて後は死ぬのを待つだけという薄情な女将も少なくはない。
 その点、サムウォルは翠月楼の妓生たちを大切な商品だとは思っていても、少なくとも病に罹れば医者には診せてくれたし、優しい言葉の一つもかけてくれる。
 かといって、やはりサムウォルも妓房の女将であることには変わりはない。第一に考えるのは、まず見世の将来と妓生たちの稼ぎがどれだけ多いかということだろう。
 自らが男であると打ち明けた浄連に対して、サムウォルはすげなかった。
―出ておゆき。ここは、お前の来るところじゃない。どうせくるなら、二、三年経って一人前の男になってから客として来るんだね。そのときは歓迎してやるからさ。
 だが。浄連はけして後へ引かなかった。試しに一度だけ、自分に妓生の格好をさせて欲しいと頼んだ。せめて記念の想い出としておきたいからと。
 女将の命で華やかなチマチョゴリが用意された。それは他の妓生の借り物にすぎず、安物ではあったが、人眼を惹くだけのきらびやかさはある衣装であった。

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