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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 歳は十九、確かに美しいには相違ないが、男としての好みから言えば、浄蓮の最も嫌なタイプだ。気位ばかりが高くて、女らしい優しさや細やかさは欠片(かけら)ほどもない。男を誑かす手練手管には長けていても、肝心の妓生として大切な舞や詩歌、伽倻琴といった芸は何一つ満足にできない。どうして、男たちは、あんな薄っぺらな女の外見だけに惑わされるのだろうと、常日頃から疑問に思っている。
 歳は浄蓮と五歳ほどしか違わないが、何しろ、五歳で女将に引き取られ、養女分として育てられたという経緯がある。他の妓生とは違い、女将も格別に眼をかけていて、しかも売れっ妓ときているから、他の妓生たちの中にも誰もこの明月に逆らう者はいない。
 私怨で幼い下男を仕置きさせたときも、他の妓生ならもう少しきつく叱られただろうが、明月がほんのお小言程度で済んだのも、やはり女将の娘分という立場があるからだ―と、皆が噂していた。女将はいずれ、この妓房を明月姐さんに譲るつもりなのさと、したり顔で言い合っている。
 女将自身もまた、若い頃はそれなりに名の通った妓生であった。従って、良人もいなければ、子どももいない。
「それでは、私はこれで失礼致します」
 浄蓮が一礼し、扉を開けて出てゆこうとしたその時。
 女将がまるで明日の天気の話でもするような口調で言った。
「良いかい、いつも、あたしがお前らに話してることを忘れるんじゃない。男に惚れさせても、けしてこちらから惚れるな。客はあたしたちを都合良く使える欲望処理のおまるくらにいしか思っちゃいない。本気になっても、後で泣くのはお前なんだからね。それに、秘密が万に一つでもバレちまえば、お前だけでなく、あたしまでこれものさ」
 女将は自分の手のひらで首をトントンと叩いて見せた。つまり、男を女と偽って商売していれば、最悪、詐欺罪で訴えられ商売停止どころか、処刑されて首が飛ぶ―と言いたいのだ。

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