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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

などと、当の秀龍が耳にすれば、〝心外な〟と、怒り出すようなことを言っている。
 コホン、また咳払いが聞こえ、チェウォルは〝じゃ〟と目配せして急ぎ足で階段を駆け上っていった。
 ちなみに、翠月楼で浄蓮の秘密を知っているのは女将だけだ。他の妓生も誰一人として知らない。女将はまた、皇秀龍が浄蓮の庇護者であると共に、浄蓮を妓房に送り出したことについて、秀龍が慚愧の想いに耐えかねていることまで知っている。
 秀龍が律儀に翠月楼を訪ねてくるのは、むろん、義弟の身を案じてのことだが、傍目にには秀龍は浄蓮の恋人として認識されている。幾ら、浄蓮が噂を否定しても、だ。
 妓生たちの男関係には―馴染みや客は別として―厳しい監視の眼を光らせている女将が秀龍の存在を黙認しているのは、すべての事情を知っているからであった。それが、他の妓生たちには〝皇氏の若さまは、女将も公認の浄蓮の恋人〟ということになっている。
 階下にゆくと、当然ながら、秀龍の姿はそこにはなかった。やはりと思いながら、いかにもくそ真面目な兄貴らしいと誇らしいような、嬉しいような気持ちになる。
 自分は妓房で働きながら、秀龍には一生涯、妓房に上がって金で女を買うような薄汚い男にはなって欲しくない―、秀龍にそう望むのは身勝手な我が儘だろうか。
 やがて、義兄も運命の相手にめぐり逢うときが来るだろう。そのときは、その娘を生涯にただ一人の想い人として、一生、愛おしんで欲しいと思う。
 それにしても、あれほどモテるのに、何で兄貴は恋人の一人も作らないんだろうな。
 それは浄蓮にとっては、大いなる謎であるる。妓房に入るまで、何を隠そう、浄蓮は女たらしということで少しは名を知られていた。守備範囲も広く、上は市で野菜を売っている露天商の若後家から、下は帽子屋の十四歳になる小娘まで、付き合っていた女の数は両手を合わせてもまだ足りない。

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