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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 女のなりをしても美しいのはもちろんだが、本来の男の姿に戻っても、浄蓮は凄ごぶるつきの美男であった。
 まあ、兄貴がモテると言っても、俺には負けるけどさ。
 一人でニヤつきながら、表に出ると、店先から通りを隔てた向こうの物陰に義兄がひっそりと佇んでいるのが眼に入った。
 翠月楼があるのは都でも外れの色町、つまり、妓房ばかりが軒を連ねている一角だ。
「兄貴(ヒヨンニム)!」
 浄蓮は大きく手を振りながら、秀龍に駆け寄った。
 やはり翠月楼と似たような中見世が並び立つ間の路地に、秀龍が立っている。
 上背があるというほどではなく、どちらかといえば中肉中背の体軀はすらりとして均整が取れている。皇秀龍は今年、二十歳になる。何代か前には国王の妃も出したという名門であり、秀龍の父才偉は現在、礼曹判書の要職にあった。
 秀龍本人はまだ任官はしておらず、翌年に控えた科挙を目指して猛勉強中だ。父の才偉は一人息子に文科を受けて欲しいと願っていたが、秀龍は随分前から武科を受験すると決めている。
 秀龍は任官先として義禁府を志望しているのだ。ちなみに、義禁府というのは、王命によって重罪人を詮議する調査機関である。皮肉なことに、浄蓮の父もまた囚われの身となった時、義禁府に連行され苛酷な拷問を受けた。
 実は、秀龍が義禁府に志願したのには訳がある。というのも、浄蓮や明賢の父、申潤俊が着せられた謀反の罪について、秀龍は早くから冤罪であることに気づいていた。とはいえ、任官もしておらぬ一介の若造が幾ら主張したとて、かえって潤俊を陥れた者たち―領議政一派から睨まれるだけだ。
 下手をすれば、秀龍までが消される。そこで、秀龍は一計を案じた。自らが義禁府に入り込み、もう一度、右議政の罪状について徹底的に調べ直すことにしたのだ。そのための武科受験であった。

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