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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

「けど、その話なら、何度も俺と兄貴の間でしただろ。もう済んだ話じゃないか」
 父が生きていた頃、秀龍の父才偉と浄蓮の父潤俊は血を分けた兄弟のように親しかった。もしかしたら、今の自分たちよりも気心が知れていたかもしれない。―少なくとも、表面上は、そんな風に見えた。
 だが、才偉は潤俊が謀反の罪で囚われるやいなや、手のひらを返したように冷淡になった。母が幾度も国王殿下に取りなしを頼む書状を送っても、返事は一度もなかった。
―あれほどまでに大(テー)監(ガン)と親しくしておきながらの、この冷酷な仕打ち! すべては、我が家門に威勢があったからこそで、ひとたび零落すれば、他人のふりをするつもりか。誰よりも忠誠を誓う我が良人が畏れ多くも国王殿下に背き奉るなどあるはずかないことは、あの方もよくご存じであろうに。
 母は悔しさに泣き、その傍らにいる兄は辛そうな表情で立っていた。
 才偉は兄弟のように付き合っていた父を一瞬で切り棄てた。才偉への恨みが浄蓮にないといえば、嘘になる。もちろん、尊敬する義兄が才偉の息子であることは、自分たちの間には何の曇りももたらさない。が、今になって、父を冷たく見棄てた才偉の情けに縋ろうとは露ほども思わなかった。
「兄貴、俺は申英真という名前を棄てた時、それまでの自分も何もかもを一緒に棄ててきたんだ。今更、後戻りしようとも思わないし、ましてや元の世界に帰りたいだなんて、考えたこともない」
 見せかけだけの親しさ、情などが何になる? 父親同士の偽りの友愛を美しいと思った幼い日の自分はもう、どこを探してもいないのだ。
 両班なんて、糞くらえだ。自分の保身だけしか頭にない連中と付き合うなんて、考えただけで虫酸が走る。
「そう、か」
 秀龍はどこか淋しげな顔で頷き、袖からおもむろに何やら取り出した。

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