テキストサイズ

麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

 麗しの浄連

 先刻から、浄連は苦り切った表情で傍らの男に手を掴まれたままでいた。時折、相手を牽制するように睨みつけてやるのだが、いかにせん、苦労も世間も知らない両班の軟弱なお坊ちゃまには通用しないらしい。
―通らないのは、世間の常識だけじゃなさそうだな。
 この男の傍にいるのが嫌で堪らないのに、この鈍い男は浄蓮の気持ちになど気を払うつもりはないらしい。もっとも、この遊び人の極道息子は、自分に靡かぬ女、意のままにならない女はいないと端から信じ込んでいるから、浄蓮がどのように嫌そうな表情をしていても、頓着しないだろう。
 浄連の手をしっかりと握った男の手は、ねっとりと汗ばんで気持ち悪いこと、この上ない。この胸糞の悪い手を思いきり振り払って、引っぱたいてやったら、どれほど小気味よいことだろう。
 その場面を想像して、ほんの僅かに溜飲を下げた浄連ではあったが、現実には翠(チェイ)月(オル)楼(ヌ)の上得意でもあるこの坊ちゃんの手をはたくことなどできはしない。もし、そんなことをしようもなら、その後で浄連が女将のサムウォルから嫌というほど鞭で叩かれるのは間違いない。
 こんな男のために自分までが痛い目に遭うのは真っ平ご免さ。
 そこで、浄連は今度は少し戦法を変えてみることにする。
「若(ソバ)さま(ニム)、少しだけ、そのお手を放して私を自由にして下さいませんか?」
「ん? どうした、何か急用でも思いついたのか?」
 相も変わらず浄連の手をしっかりと握りしめたまま、男は上機嫌で問う。
「皆さまのご酒がそろそろなくなりそうなので、取って参ります」
 それは満更、嘘とはいえなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ