テキストサイズ

麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

梁(ヤン)桓全(ファンジヨン)は時の領議政(ヨンイジヨン)の嫡男で、彼の父は目下国王(チユサン)殿下(チヨナー)の信頼も厚く、飛ぶ鳥を落とす勢いである。当然ながら、その息子もまたそれなりの官職にありつき、父の威光を笠に着て、どこでもやりたい放題の我が物顔にふるまっていた。
 この翠(チェイ)月(ウォル)楼(ヌ)は妓房としては中堅どころの見世ではあるが、けして高級妓楼ではない。ファンジョンの父などはけして脚を踏み入れる場所ではないが、その息子程度では、かえって気軽に登楼できるのだ。
 ファンジョンは十日と上げず通ってきては、毎回、大枚をばらまいて帰ってゆく。そのお目当てが浄連にあることくらいは、女将のサムウォルどころか翠月楼の妓生なら誰もが知っていることだ。こうして翠月楼の若い妓生ばかりを集め、呑めや歌えやの馬鹿騒ぎを繰り広げるのはもういつものこと。
 ファンジョンの取り巻きは数人いるが、どいつもこいつも親分と似たり寄ったりの気性で、大差はない。女好き酒好きの放蕩息子ばかりである。彼等の頭の中には、この後、女を臥所(ふしど)に引きずり込むことしかない。考えれば考えるほど、反吐が出るほど愚かな連中ばかりだ。
 今、そこそこの広さのある座敷には、総勢六人の若者たちが集まっており、それぞれの傍に馴染みの妓生が侍っていた。
ただ一人、片隅で黙々と箸を動かしている若者だけは、どこかこのくだらない連中からは浮いているように見える。この場所にいることをさほど愉しんでいるようにも見えず、彼の隣に座る妓生は明らかに暇を持て余した退屈そうな顔である。
 穏やかそうな人柄なのに、その双眸は何故か、とても淋しげに見える。棄てられた仔猫が必死に親猫を求めているように切羽詰まっていて、瞳に宿る孤独さは余計に彼を沈んだ雰囲気に見せていた。
 何故、彼のような思慮深そうな男がファンジョンの取り巻きなのか解せない。
 浄蓮はこの場違いな青年の存在が最初から気になって仕方なかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ