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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

「図星です、兄上。やはり、幾つになっても、私は兄上には適いません」
 準基が頭をかくと、兄はまた笑った。
「ですが、兄上、その娘は一風変わっているのです」
「変わっているとは、どんな風に?」
「大抵、妓房に売られてくる娘というのは泣き泣き親に諭されてというか、金のためにやむなく身売りするというのが相場ではありませんか。しかし、その娘は違うのです。私にはっきりと申したのですよ。綺麗な着物が着たくて妓生になりたいから、妓房に自ら望んで来たのだと」
 兄は黙って準基の話を聞いている。余計なことは一切言わなかった。
 いつも、そうなのだ。兄に悩みを打ち明けることで、準基は自分の心を整理できる。そして、話を聞いた兄が何かしらの言葉をくれ、それが解決の糸口になることも多いのだ。
「私には正直、その者の心が判りません。妓生になれば、多くの男に身を任せねばならないのに、自分から望んで妓房に入っただなどと。ただ現実が見えていないだけの愚かな娘なのか、それとも、身体を売ることなど何の抵抗も憶えない道徳心のない娘なのか―」
 しばらく兄からの応(いら)えはなかった。
「なあ、準基や。こう考えては、どうだろうか。世間の常識など、所詮は真正面から物事を捉えた見方にすぎない。さりながら、物の見方、考え方というのは、実は我々が考えているよりも数多くあるんだ。真正面から見た場合、右から、左から、或いは真後ろから見た場合と、それぞれ見る方向によって自ずと結果は違ってくるのは当然だ。だから(クロニカ)、私は思うのだよ。物事についての応えというのは実に様々で、どの応えが正しいか、正しくないかと言い切れるものではないのではとね」
「つまり、ある人にとっては、こちらが正しくても、別の人にとっては、全く別の応えが正しいこともあり得ると?」
 兄は深く頷いた。

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