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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

「まさに、そのとおりだ。もちろん、それは極端な例で、世間でおよそ正しい、当たり前だと思われているのが万人に通ずる考え方だ。つまり、それが俗に常識とか良識とか呼ばれるものだ。そして、その常識に沿った行動を心がけていれば、人としての道を踏み外すことがないのだけは確かだ」
 準基は兄に真摯な瞳を向けた。
「物事というのは、どれが良い、悪いではないと、兄上はそうおっしゃりたいのですね」
 そうだ、と、兄は幾度も頷く。
「先ほど、そなたの申していた娘の件にしても、その娘が彼女なりに精一杯考えて出した結論なら、その娘にとっては、それが最も正しい応えということになる。そして、そなたはその娘を慕っているのなら、その結論なり決意を信じてやるべきでないのか? たとえ誰がその娘の生き方を非難したとしても、そなただけは信じ励ましてやりなさい」
「判りました」
 準基は兄の眼を見ながら、はっきりと応えた。
 兄もまた、やわらかな微笑を浮かべる。
 準基は兄のこの笑顔が好きだ。兄の穏やかな人柄が何よりよく滲み出ている。
 そこで、準基はふと思い出した。
「ところで、兄上。大切なことを忘れていました。先日、兄上に頼まれた書物ですが、なかなか見つかりませんでした。都中の本屋という本屋を探し回っても、どこも品切れで、次にいつ入ってくるかも判らない状態と言われましてね。私の幼なじみに朴(パク)智(ジ)承(スン)という者がいたのを憶えておいでですか?」
「朴ジスン―」
 しばらく考え込んでいた兄の瞳が輝いた。
「ああ、あのジスンだな。一度だけ、私たちが内緒で町へ出るときに一緒について来たことがある」
「そうです。あのジスンです。あの後、ジスンの母上に見つかって、彼は鞭で嫌というほどお尻をぶたれたそうですよ。あれ以来、幾ら誘っても、二度と一緒に行くとは言いませんでしたっけ」
 ジスンはぶたれた尻が痛くて、その後も半月はまともに座れなかったと、今でもよく零す。

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