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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

 浄連の瞳に、席を立とうとする若い妓生菜月(チェオル)の姿が映じた。
「姐さん、それは私がやりますから、姐さんはどうかこのまま座って―」
 言いかけた浄連をチェウォルがちらりと見た。その細い双眸が恨めしげにこちらを見つめている。
 ファンジョンとはまた別の意味で、思わず膚が粟立つような陰気な視線だ。
 客(おとこ)も妓生(おんな)も、この世界では薄汚い。最初は綺麗で優しい心を持っていたのに白布が土色に染まるように汚れてしまうのだろうか。元々、生まれたそのときから、真っ黒な心を持った人はいないだろうから、やはり、苛酷すぎる環境が女たちを変えてしまうのだろうか。
 女を抱くためだけに登楼する客は、言わずもがなだ。元々、君子が妓房に来るはずがない。一夜限りの快楽を求める好色漢ばかりがここにやって来る。
 元々、チェウォルは大人しすぎる嫌いはあるけれど、根は悪くない。近在の農村から出てきたという彼女は両親を早くに亡くし、弟と一緒に祖母に育てられた。年老いた祖母や弟のために自ら身を売ったという情の厚い孝行娘だ。が、やはり、年下の下働きに客を取られ、妓生である自分の方が女中紛いの仕事をさせられたとなれば、嬉しかろうはずがない。
 チェウォルの恨みがましい視線に当惑しながらも、浄連はファンジョンの手を強引に押しのけた。
 妓房では何より、年功序列が物を言う。チェウォルは八歳からここに来て、見習い期間を経て二年前、妓生となった。今、十七歳の花の盛りである。年齢的には浄連と二つしか違わないが、翠月楼に入ってまだやっと一年足らずの浄連とは年季が違う。
 たとえチェウォルがあまり売れっ妓ではないにせよ、それは浄連が同じ土俵で闘える妓生であればの話。浄連は妓生どころか、ファンジョンにも言ったように妓生見習いでさえもない、ただの下働きの女中にすぎない。

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