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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

下働きが妓生に睨まれたら、どうなるか。
 そのことを、浄連は身に滲みて知っている。
 以前、翠月楼いちばんの売れっ妓に楯突いた下男の少年に、妓生はちょっとした意趣返しをした。馴染みの富裕な商人に頼み込み、少年をその用心棒たちによって仕置きさせたのだ。
 まだほんの子どもの少年は、生命が危ぶまれるほどの大怪我を負った。幸いにも一命は取り止めたものの、意識不明の状態が三日続き、結局、右脚を引きずって歩くようになってしまった。
 十歳の少年は親許に引き取られ、廓を去った。そのときも、その妓生は女将には軽く窘められたにすぎず、今ものうのうと暮らしている。
 その時、少年の傍で寝ずの看病をしたのは浄連であった。まるで死人のように蒼褪めた少年の小さな顔には打ち据えられた跡が痣となって幾つも刻まれ、正視できない無惨な状態であった。
 妓生は少年をそこまで徹底的に打ちのめす気はなく、ほんの懲らしめ程度で済ますつもりではあったらしい。血気に逸った用心棒たちの行為に行き過ぎがあったのだ。しかし、心と身体に一生癒えぬ傷を負った少年に対して、〝そんなつもりではなかった〟だけでは済まない―。
 チェオルをこのまま行かせるわけにはゆかなかなかった。
 そこで、浄連は一計を案じた。
「若さま」
 浄連は嫌悪感ですぐ隣の男を思いきり突き飛ばしてやりたい衝動を必死で堪(こら)えつつ、ファンジョンの耳許に唇を寄せた。珍しく意中の娘からの積極的な行為に、ファンジョンの顔がしまりなく緩む。
 しかし。次の刹那、ファンジョンは腹を抱えて大笑いを始めた。
 浄連は予期せぬ相手の反応に、眼を見開いた。一体、自分の言葉の何がどうして、そこまで滑稽だったのか理解しかねた。

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