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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

  天上の苑

 浄蓮は頬杖をついたまま、ボウとあらぬ方を見つめていた。
 梁ファンジョンの事件から、三日が経過していた。あれから、浄蓮は正直言うと、酷く心配していた。一旦は怒りをおさめて帰っていったファンジョンではあったが、また、腹立ち紛れに何をしでかすか知れないと思えたからだ。
 悔しいかな、あの卑劣漢は領議政の息子であり、領議政とは議政府の長であり、三政丞(チヨンスン)の中でも最も重い職務であった。言わば、この国の至高の存在とされる国王を除けば、最高権力者であり、また朝廷にひしめく臣下たちの筆頭者でもある。
 それほどの高官の嫡子を公衆の面前で辱めれば、相手がその気になれば、妓房の女中など、いとも容易く不敬罪に問われる。
 領議政は何より己れの保身を第一に考える男だから、息子がたかが妓房の下働きの少女に侮辱されたからといって、大騒ぎすることはないはずだった。かえって事を荒立てて公にすれば、息子の愚かしいふるまいが世間にひろまり、親子共々恥をかくだけだ。
 父親の方はともかく、血気に逸った息子の方は、どう出るか予測はつかない。憤怒のあまり、翠月楼が色町で商売をやってゆけなくなるように裏で手を回すくらい、領議政の息子には造作もないことなのだから。
 だが、怖れていたことは、結局、現実にはならなかった。流石の極道息子も父同様、騒ぎ立てては、かえって自らの恥をひろめるようなものだと気づいたのだろう。翠月楼は今までどおり商いを続け、黄昏刻には目当ての妓生に逢うために登楼する多くの男たちで賑わった。
 とりあえず、今のところ、あの卑劣漢については心配はなさそうだ。そう思っても、何故か、浄蓮の心は少しも晴れなかった。

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