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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 懸命にない知恵を絞った挙げ句、
「そんなに泣いてばかりいたら、身体中の水分がなくなってしまう。一刻もしない中に干上がった漢江のようになってしまうよ」
 と、実に様にならない言葉しか言えなかった。
 十二、三の子どもでも、もう少し気の利いたマシな慰めを思いつくに違いない。
 しかし、奇蹟が起きた。
 準基の言葉に、浄蓮がクスリと笑ったのだ。今泣いたばかりだというのに、この少女は眼に涙を溜めたまま、笑っている。おまけに準基の差し出した手巾を受け取り、涙をぬぐったではないか!
 ああ、仏よ。心から感謝します。
 準基は信心というより、迷信深い母と違って、仏に祈ったことなどなかった。が、時ここに至って、普段は拝んだことのない仏に礼を言った。
 それにしても、浄蓮の笑顔の何と愛らしいことだろう。もし自分が国王なら、この笑顔を見るために、朝鮮中の宝玉という宝玉を集めて贈ったって良い。いや、王さまでなくても、買えるだけの宝玉を買い集めて宝石箱に詰めて贈ろう。
 もっとも、この少女は宝玉を山と積まれて微笑むような、物で心動かすような世の女どもとは違うだろう。―とは、まだ彼女をよく知らない準基でも判った。彼女に魅了されたのは、何も外見の眉目麗しさにだけではない。そんな世俗の欲に囚われない清々しさや真っすぐな気性にも強く惹かれたのだ。
 浄蓮が無心にこちらを見つめている。
 まだ涙の雫を宿した瞳で。
 そこに宿るのが何の感情なのかまでは、残念ながら判らなかったが、少なくとも、迷惑そうでないことだけは確かだ。
 準基もまた大きく眼を見開き、その美しすぎる瞳から眼が離せなかった。

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