テキストサイズ

麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 男対男とか、理屈とか常識とかは関係ない。今までよく恋に溺れ切り、浸りきった人々の分別のなさを見て、どうしたら、あそこまで理性を失えるのだろうと首を傾げていた。
 ほんの遊び程度で済ませておけば、互いに傷痕も残らずに済むのに、深間になったばかりに当人同士だけでなく、周囲の人々までをも巻き込んで不幸にする。恋を成就させて結婚する恋人たちは本当に幸せだが、実際には、そんな幸運な若者は少ない。
 殊に、両班の家に生まれれば、家門のために生き、家門のために結婚するのだ。それは男女の別なく両班家の一員として生まれた者に課せられる義務であり使命である。
 それがまた一般民になれば、違ってくるのかもしれないが、この国では儒教を元にした厳しい身分制度が徹底していて、違う身分同士では婚姻できない仕組みになっている。
 両班に生まれても、常民(サンミン)であっても、想う相手と結ばれるのはとても難しい。ましてや、獣以下の扱いを受ける賤民(奴婢)であれば、尚更、生きづらい世の中だ。
 今、浄蓮が身を置く妓生の世界では、言わずもがな、金のために男に脚をひらく女たちに恋愛どころか婚姻の自由があるはずがない。
 それでも、厳しい制度の網の目をかいくぐり、恋をまっとうしようとする道ならぬ恋人たちがいる。そんな人々を浄蓮はこれまで愚かだと思い込んできたのだ。
 だが、実際は、どうだろう。
 男の身で同性である男に恋心を抱く自分が、他人のことを批判できるのか?
 恐らく、常識家の義兄が聞けば、〝眼を覚ませ〟と烈火のごとく怒り出すに違いない。
 堅物の兄貴には、男にとって、同じ男なんて恋愛の対象にはなり得ないと最初から信じ込んでるだろうからな。
 自分もずっと、そう信じてきた。
 けれど、恐らく、それは違うのだろう。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ