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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 自分の心の奥底を覗き、認めてしまったら、随分と気が楽になった。あるべき場所にある物がやっと落ち着いたような感じだ。
 自分は、男に恋をしたわけではない。
 任準基という一人の人間に惚れたのだ。この男の限りなく無垢で優しい本質に惹かれた。ただ、それだけのことだろう。
 これまで誰よりも近くにいて理解してくれた秀龍でさえ、この胸の想いをけして認めてはくれないだろうけれど。
 誰が認めてくれなくても良い。
 自分だけが知っていれば。
 準基がかすかな笑みを浮かべて、浄蓮を見つめた。
 浄蓮もつられるように微笑む。
 ふいに、ふわりと身体が軽くなった。―かと思ったら、次の瞬間には逞しい腕に抱き上げられ、馬に乗せられていた。
 続いて、準基もひらりと馬に跨る。横座りになった浄蓮を前に乗せ、準基は腕で守るように抱え込んだ。
 準基は白馬にひと声かけると、軽く長靴で腹を蹴る。忽ち白馬は走り始めた。
 色町を抜け、あっという間に都の大路へと出る。今日も漢陽の大通りは大勢の人々が行き交っていた。両班、商人、常民、それぞれの身分に属する人々が思い思いの場所へと急いでいる。
 この広い都には王さまもいて、大臣もいて、両班と呼ばれる特権階級がいる。そして、名もない庶民も懸命に日々を生きている。
 身分は違っても、皆、同じ人間で、生きていることに変わりはない。
 何故、生まれた場所が違うだけで、貶められる人々がこの世にはいるのだろうか。
 まだ十五歳の自分には、世の中を変える力などありはしない。けれど、いつか、この手の上で、弱い民をいたぶる奴らを好きなように転がしてやる。罪なき父に罪を着せ、死に追いやった両班を逆に手玉に取って、彼等から搾り取れるだけ搾り取ってやる。

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