
ヌミノース
第1章 1
ヌミノース Numinose[独]
聖なるものの体験、その体験に伴う感情
人は生きることを清らかに捉えすぎる。 というのは、哲学的な学びにおける暗黙の了解だ、と僕は思う。
厚さ10センチもある専門書を軽々と浮遊させるテーブルが机の横でゆらゆらと揺れる。最近買った磁気浮遊装置付き家具。23世紀に旧石器時代ばりの生活をしている僕に友人が無理矢理買わせたものだ。こういうものに好意も嫌悪感もないが、なかなか便利だと思っている。今度、友人にお礼でも...いや、そんな金はなかった。むしろ、なくなった。こいつのせいで、
一枚ページをめくるとそのテーブルは、まるで重さに耐えかねないとでもいうように、左右に揺れた。まるで人みたいだ。無機物も滑らかな動きをすればするほど、人に似通っていく。人間は一体、どこまでを見据えて何を作り出したいんだろうか。
「加藤!」
うるさい男がやって来た。
彼が登場すると僕は意識を遠くへ飛ばしていく、誰も吸っていないタバコの煙が細く伸びて部屋の隅に消えていくように、それは、静けさを好む僕の部屋でけたたましく騒ぎ立てて、あとは気がすめば、帰っていくことを僕は知っているからだ
そして、こんな風に対応していながらも、僕が彼を好いていることを彼自身も分かってくれているという安堵があるからだ
そうして僕は、暖かい日差しの差し込む、埃できらめく暗い書斎で彼の言葉に耳を傾けた
聖なるものの体験、その体験に伴う感情
人は生きることを清らかに捉えすぎる。 というのは、哲学的な学びにおける暗黙の了解だ、と僕は思う。
厚さ10センチもある専門書を軽々と浮遊させるテーブルが机の横でゆらゆらと揺れる。最近買った磁気浮遊装置付き家具。23世紀に旧石器時代ばりの生活をしている僕に友人が無理矢理買わせたものだ。こういうものに好意も嫌悪感もないが、なかなか便利だと思っている。今度、友人にお礼でも...いや、そんな金はなかった。むしろ、なくなった。こいつのせいで、
一枚ページをめくるとそのテーブルは、まるで重さに耐えかねないとでもいうように、左右に揺れた。まるで人みたいだ。無機物も滑らかな動きをすればするほど、人に似通っていく。人間は一体、どこまでを見据えて何を作り出したいんだろうか。
「加藤!」
うるさい男がやって来た。
彼が登場すると僕は意識を遠くへ飛ばしていく、誰も吸っていないタバコの煙が細く伸びて部屋の隅に消えていくように、それは、静けさを好む僕の部屋でけたたましく騒ぎ立てて、あとは気がすめば、帰っていくことを僕は知っているからだ
そして、こんな風に対応していながらも、僕が彼を好いていることを彼自身も分かってくれているという安堵があるからだ
そうして僕は、暖かい日差しの差し込む、埃できらめく暗い書斎で彼の言葉に耳を傾けた
