どうして?僕が攻めじゃ不満なの?
第1章 カワイイ娘
それでも意地を張って絶対口を開かないようにしていると、不意に歩くんの表情が穏やかになった。
「穂浪くん、口開けてくれないの?」
何時ものアイドルの歩くんになった。
そうだ…これこそ歩くんなんだ。
…アレは、全部幻想で…僕が作り上げた錯覚で…歩くんは、可愛くて優しくて…アイドル。
相変わらず下から上目遣いで見られたら、既に僕は言うことを聞いてしまった。
「んッひッぅ…」
ヌルッと精液の付いた綺麗な指は、僕の口の中に侵入してきた。
精液の不味さに、自分が何をしているか気付いて抵抗する。
「アホだね、単細胞。」
眉を寄せて、歩くんの指を抜き取ろうとしたら、余計に喉の奥を突かれて嗚咽感をもたらす。と同時に、耳元で裏の歩くんが顔を出す。
「んぐッ…こん…な、歩くッ…なんか…やッない!」
(こんなの歩くんなんかじゃない!)
僕は、こう言った。
「なにそれ、穂浪くんの中の僕の理想はそんな素敵な偽善者だったの?こんな酷いことしない、優しくて、ただ可愛いだけ?」
指先で舌を遊ばれる。
「んふッぁッ…」
「穂浪くんは、随分都合が良いな…僕だって人間だよ?そうだ、この際だから教えといてあげようか。皆、みーんな、僕の操り人形。僕を貧弱だと思ってる。性格も、可愛くて優しいって単純に勘違いしてる。皆面白いよ?僕、何にもお願いしてないのに勝手に跪いて勝手に助けて…ふふっはははっ、ね?笑えるだろ?」
歩くんが口の中に入れていた指を抜くと、僕の口から涎が引いた。そして、口端にも涎が垂れた。
「でも…でもね?僕は、そんな綺麗なモノじゃないんだよ。残酷で、全然可愛くないし…僕の為に跪く奴を蹴り殺したいって思ってる位最低な奴なんだよ。」
何故だろう…歩くんは、こんなに闇だっただろうか。
こんなに、儚く廃れて居ただろうか…。
何故、僕は…歩くんを、抱き締めてあげたいと思うのだろうか。
「穂浪くん、こんな僕を…君は愛してくれる?」
これは、嘘の歩くんだ。分かって居ても、僕はどうしても、歩くんを振り払うような真似は出来なかった。
僕が静かに歩くんに回した腕の裏側で、歩くんが悪魔の笑みを浮かべていたことも知らなかった。