
天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第8章 哀しい別離
執拗に唇を吸われている間に、いつしか八重の身体から力は一切奪われてしまった。まるで、脱力したかのように、八重は観念して嘉亨に身を委ねる。
いかほど経ったであろうか。八重にとっては果てしなく長く続いた時間のように思われた。
「表におっても、そなたのことばかり考えてしまう」
大人しくなった八重を腕に抱いたまま、嘉亨が笑いを含んだ声音で囁く。
八重のすべらかな頬に小さな音を立てて口づけてから、漸く八重をその甘やかで優しい縛(いまし)めから解放する。
その時。
何げなく視線を動かした八重は零れんばかりに瞳を瞠った。
ほんのわずかに開いた襖の向こうに、人影があった。清冶郞に間違いない!
八重は悲鳴のような声を上げて、嘉亨から飛びすさって離れた。
嘉亨が何事かと八重につられるように後方を振り向く。
「若君さまッ」
八重は慌てて襖を開けた。
清冶郞は大きな眼に涙を一杯に溜めていた。
「酷(ひど)いよ、二人とも」
清冶郞の眼からぽろり、と涙が転がり落ちる。
「約束したじゃないか、私が十五になるまで待っててくれるって」
「清冶郞さま、これは」
言いかける八重に、清冶郞が怒鳴った。
「言い訳は聞きたくない。八重がこんな子どもの言うことなんか、端から本気にしてなかったことくらい、私にだって判ったよ。八重が父上を好きなのだということも!」
いかほど経ったであろうか。八重にとっては果てしなく長く続いた時間のように思われた。
「表におっても、そなたのことばかり考えてしまう」
大人しくなった八重を腕に抱いたまま、嘉亨が笑いを含んだ声音で囁く。
八重のすべらかな頬に小さな音を立てて口づけてから、漸く八重をその甘やかで優しい縛(いまし)めから解放する。
その時。
何げなく視線を動かした八重は零れんばかりに瞳を瞠った。
ほんのわずかに開いた襖の向こうに、人影があった。清冶郞に間違いない!
八重は悲鳴のような声を上げて、嘉亨から飛びすさって離れた。
嘉亨が何事かと八重につられるように後方を振り向く。
「若君さまッ」
八重は慌てて襖を開けた。
清冶郞は大きな眼に涙を一杯に溜めていた。
「酷(ひど)いよ、二人とも」
清冶郞の眼からぽろり、と涙が転がり落ちる。
「約束したじゃないか、私が十五になるまで待っててくれるって」
「清冶郞さま、これは」
言いかける八重に、清冶郞が怒鳴った。
「言い訳は聞きたくない。八重がこんな子どもの言うことなんか、端から本気にしてなかったことくらい、私にだって判ったよ。八重が父上を好きなのだということも!」
