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魔境夢想華

第3章 交差する不安《凜視点》

激しいまでの頭痛。
まるで何かから逃れようと、遠い記憶を排除しようとしているみたいな感覚に恐怖心を覚える。



「大丈夫かい?」

蹲り、苦痛に耐えている俺に声が掛かるが、それに答える余裕はなかった。とにかく割れそうに痛む頭痛から解放されたい。今はその一心だった。

「相当辛そうだね。待ってて」
返事も出来ない俺に声はそれだけ告げ、そのまま何処かへ去ってしまったようだ。





しばらくして徐々にだが頭痛が和らいでいく。
まだ回復とまではいかないが、それでも幾分か楽になり、俺は下駄箱に手を付きながら何とか立ち上がろうと試みる。ふらりとなりながらも立つことに成功した俺は、軽く頭を振る。
「つっ……」
ちょっと動くだけで脳が刺激されたように、頭痛が治まってないことを訴える。


「まだ無理しちゃ駄目だよ」
またさっきの声が飛んだ。
やっと反応出来る程に回復を見せ始めた俺は、その声の主へとゆっくりとだが振り向く。
「……岸谷……先輩?」
心配した表情で見詰める岸谷先輩と目が合う。
(そうか……、岸谷先輩だったんだ……)



「まだ顔色が青いし、少し休んだ方がいい」
促そうとしてるのか、俺の肩にそっと手を添え、まだ歩くのもぎこちない俺に配慮しながら先導していく。
「でも……」
それでも遠慮が入っている俺は気まずい雰囲気をありありと出してしまう。
「その調子じゃまだ辛いんじゃないかな。無理して途中で倒れても困るだろ?」
心底心配してくれる先輩には感謝するが、まだ知り合って間もなく、しかも先輩に甘えるのは多少の抵抗感がある。
「それじゃ……、適当に何処かで休みますから先輩は帰ってください」
これ以上、先輩の手を紛らわす訳にはいかない。

だが岸谷先輩は苦笑を浮かべる。
「そんなに僕が一緒にいると嫌?」
どうやら嫌がっていると誤解されたらしい。
「い、いえ! そんなことないです」
誤解を解こうと慌てると今度は微笑を湛え、更に俺の肩上に添えられた右手に力が込められる。
「なら問題なし。それに僕も君と話がしたかったしね」
にっこりと微笑まれ、断ることも出来なくなった俺は岸谷先輩の好意に甘えることにした。

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