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魔境夢想華

第4章 魔物《凜視点》

『さあ、もうお喋りはここまでだ。俺様は早くお前の美味そうな“気”を食いたくて疼いてるのよ』
これ以上待ちきれないと奴の身体が更に俺に寄せ、絶望に近い至近距離と体重に何とか奴から逃れたいと身を捩ろうとするが、両肩に食い込む奴の腕が食い込み、骨にまで響く程の痛覚を与えられ、その激痛に耐えようと、身体全体が小刻みに痙攣を引き起こす。
「……つう……っ……」
あまりの痛感に呻き声を発してしまう。

先輩の姿を乗っ取った魔物は俺に覆い被さり、顔もお互いの吐息が感じるぐらいの距離まで近付いてきた。
何をされるのか全く予想も出来ない俺は恐怖に駆られ、思考能力も欠け始めてきている。全身は痛覚を通り越し麻痺したのか、今は全身がひどく寒く感じて仕方ない。それは肉体的と精神的からくる悪寒だったかもしれない。俺たちのいる空間はずっと歪み、段々と目も霞み、意識をはっきりと保つことすら皆無になりかけていた。

(この……まま……、こいつに……)
もう助かる見込みはない。諦めにも似た感情だけが支配し、意識を手放そうとしている自分がいる。そしてこいつが俺に何か仕掛けているのすら、今の俺は理解出来ずにいる。

ただ俺が正常にいられた最後、瞳に映っていたのは目の前のこいつが歪な笑みを浮かべる、異様な光景だった……。







何か咥内にぬめりを微かに感じたが、それが何なのか霧がかった頭ではそれを確認する気力は消え失せていた。
ただぼんやりと無気力に瞳孔を広げ、無抵抗な身体は奴に捧げる生贄のように投げ出している。

何も考えられない。何もしたくない。何もかも放棄したくなっている自分。このまま生きることすら放棄したら楽になるだろうか?

そうだ、そうだよな。生きていたって面倒なだけだ。生き続ける限り、俺はきっと辛い思いをする。楽しいことばかりじゃない。それに人間、何時かは死ぬじゃないか。どうせ死ぬんだ。それが早いか遅いか、それだけの違いだ。だったら今のうちに楽になった方がいい。



「…………ん……、り……ん……――」
微かに、微かにだが遠くから声が聞こえた……気がした。
だが瞳を開けているのも億劫になっていた俺は、それを確認することもなく意識をとうとう手放してしまった……。

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