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精霊と共に 歩睦の物語

第8章 共にする者

 信司。実。楓の順番で体育館から飛び出した。

「信司さん!実!」
 景が三人に駆け寄る。

「お母さん!」
 実が景を見つけると走り出す。

「実!怪我はない?」
 ギュッと抱きしめる。

「うん、大丈夫」
 少し涙目で笑う実。

「そう、よかった」
 実のポッぺを景はぷにぷに揺らす。

「景さま…」
 楓が頭を下げる。

「楓くん…歩睦は…行きましたか?」
 景の声が震えている。

「はい。僕は…」
 楓も声が震えている。

「少し、早くなったね。今までありがとう。これからも、よろしくね」
 景は哀しそうに微笑む。


「はい。僕もいきます…」
 楓は、90度の角度で頭を下げて、走り出した。


「楓お兄ちゃんも行くの?」
 実は走っていく楓の背中を追っかける。


「さ、実くんは少し、眠ってくださいね」
 信司は、実の両目と額が隠れるように手をのせる。

「お父さん?」
 急に目を隠され不安な声をあげる。

「『忘却の理』(ぼうきゃくのことわり)」
 信司の手が一瞬輝く。

「…あぁ……スー…」
 実は信司の腕の中で眠ってしまった。

「運命は我々の時の流れより、こんなに早く来るんだね…」
 信司が眠った実をそっとベンチに寝かす。


「信司さん、歩睦が!歩睦がぁぁ」
 景は抑えていた感情が噴出したのか、言葉にならずに泣き始めた。

「景さん!」
 信司も今にも泣きそうな顔で、抱きしめる。

「景さん…歩睦にはあの子がちゃんといる…いつかこうなる日がくると思ってた。大丈夫だ!大丈夫だよ…」
 信司は景を抱きしめ続ける。

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