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井上真緒編

第5章 5

チアキ「どうしたの。元気がないわね」
真緒「うるさい。あんたのせいでしょ。心配したふりなんかしないでよ」
チアキ「思ったよりは元気があるのかしら」
真緒「ないわよ。それより、もう早く出て行ってよ。そうすれば私は幸せになれるんだから」
チアキ「人のせいにして問題が解決することはないのよ」
真緒「説教なんかしないでよ。だいたい、あなた子供でしょ」
チアキ「な、何を言うの。私は何百年もこうやっているのよ」
真緒「何百年て、いったいどういうことなの。子供のままずっと」
チアキ「私が子供。バカなことを言うのはよしなさい。あなたに分かるのは、ほんの少し。あなたの周りだけのことよ」
真緒「なんで、そこに張り付いてるのよ。ほんとうに自分では動けないの」
チアキ「あなたが幸せになったら、私の仕事は終わるの」
真緒「はあ、ふざけないでよ。邪魔ばかりしてるくせに。私が動かしてやる」
真緒は結婚が駄目になって、本当に頭にきていた。テーブルを押して、のぼって、手でチアキの殻をむしり取ろうとした。それはどろっとしていて、なんとも感触が悪かったが、不思議なことに殻は、手をすり抜けてしまって、チアキを捕まえることはできなかった。粘着質の液体だけが手に残ったが、何度やってもそれは同じだった。

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