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天海有紀編

第1章 1

ただ、それに目を付けたのがいとこの松岡裕太だった。彼は、母方のおばさんの子供だった。裕太は、25になっても、フリーターをやっていて、それがおばさんの悩みの種だった。有紀は、その話を母から聞いていたが、しかし、それぐらいいいじゃないと母には言っていた。その裕太が、その話でもどこかで聞きつけたのだろうか、有紀のところの空き物件を使わせて欲しいと言ってきたのだ。有紀は裕太にあんた家賃なんて払えないでしょ、と言ったが、いや儲けが出たら払うと言った。出なかったらどうするのよ、それでも払うのが普通なのよと有紀は言った。それじゃ、前借りさせてと裕太は言ったが、有紀は、あんたに前と後ろがあるのかしらといったが、まあいいわ。その代わり2階が埋まって、他にも入りたいっていうところがあったら、あなたは出て行くんだからねと裕太に言った。え、本当に。涙もんと裕太は言った。それであんた何やるのと言うと、裕太は、パン屋だったんでしょ、だったらパン屋でしょといったので、そんな理由と言った有紀は、きっと駄目だろうなと思っていた。有紀が、なぜこの物件を買ったのかというのは、自分で独立して事務所を持ったからだった。元々が、何でも自分でやらないときが済まないたちで、そういったところは前の大手の事務所に所属していた頃は、影を潜めていたのだが、自分で事務所を持つことになって、その性格が出てきてしまったせいでもあった。

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