歪んだ国とキミ
第2章 Ⅰ
10月6日金曜日の23時を少し過ぎた頃。
普段通りに残業を終えて帰宅をする、いつもの金曜日が終わろうとしていた。
会社から駅までは歩いて10分程度。電車は2駅で歩こうと思えば歩けない距離ではない。それに自宅は駅から歩いて5分という近さだ。会社から自宅まで合計徒歩で30分もかからないだろう。今が日の出ている明るい時間帯なら迷わず徒歩を選んでいるだろう。しかし今は夜の23時過ぎ。
若い女性が一人で30分も歩くだなんて危険過ぎる。
(なんてくだらない。)
本郷燐(ほんごうりん)は思った。
あくまでもそれは一般論。いくら本当に危険だからといってもわざわざ電車を使ってまで帰る距離と時間ではない。
それに彼女には自信があった。
幼少の頃より空手、柔道、剣道、の武道を習っていた為自分の身を護る術を得ていて、武器を持っていたり、その道のプロでは無い限りは簡単に男に押し倒されたりなどはしない、と。
実際、彼女には武道の才能と実力があった。
だから23時に徒歩で帰宅する事になんの不安も無かったのだ。
カツン…カツン…カツン…カツン…
流石にこの時間にもなると人っ気が無く、自分の足音でさえ多少なりとも不気味に感じてしまう。
普段ならなんとも思わないのに。
なのに何故だか今日は些細な事に反応してしまう。
例えば自分の足音。風で揺れる葉っぱの音。信号機のチカチカ代わる光。
自意識過剰だとは分かってはいても視線を感じて振り向いてしまう。
やはりそこには誰もいないのだが。
(…今日は疲れてるんだわ。私、一週間よく働いたもの。そうよ、疲れてるんだ。)
この不気味な不安の原因は疲れだと決めつけ、彼女は足早に自宅へと戻った。