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アルカナの抄 時の息吹

第3章 「運命の輪」逆位置

いつものように、何か元の世界へ戻るヒントはないかと書庫の本を片っ端から読む。目についた本をすべて手に取り、抱え込んでいく。

…と、なんとなく、『ヴェルテクス史』と書かれた新しめの背表紙に目が留まった。少し背伸びをして手を伸ばしたとき、すっと横から伸びてきた手が、あたしより先にそれを本棚から引き抜いた。

ふと横を見ると、例の青年だった。

「はい。どうぞ」
青年は、おばさんキラーなやわらかな笑みを浮かべ、本を差し出した。

「ありがと…」
突然のことに驚きながらも、本を受け取る。

「どういたしまして。…さっき、君がここに入っていくのを見かけたから」
どうしてここに、というあたしの心を読んだのか、青年は言った。そして思い出したように続ける。

「…いけない。急いでるんだった」
またね、と言うと、青年は足早に書庫を出ていった。

瞬く間に起こったできごとに、あたしは暫し目をぱちくりさせていたが、ふと我に返る。腕の中に積まれた本にさらに数冊重ねて書庫を出た。

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