
Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
紗英子の耳許で〝好きだ、愛している〟と囁いた。しかし、情事の最中の〝愛している〟などという科白を鵜呑みするほど愚かなことはない。男にしろ女にしろ快楽に身体を支配され、我を忘れている最中には、どのような甘い科白だとて口にするものだ。
「あなた、少し話があるの」
別に今夜、あの話をしなければいけないわけではなかった。だが、こうと決めたのなら、早い方が良いのも確かだ。引き延ばせば引き延ばすほど、心は鈍り言いにくくなるだろうことは判っていた。
「うん? 何だ」
新聞に視線を向けたまま返事が返ってきた。
「大切な話よ」
紗英子の口調に何かただならぬものを感じ取ったのか、直輝は新聞を大雑把に畳み、脇へ寄せた。
食後のコーヒーはリビングでと決まっている。イブのために焼いたブッシュ・ド・ノエルもクリスマスが終わる前にちゃんと今夜、食べたし、シャンパンも開けて、他のご馳走も何とか片付いた。
「あなた、少し話があるの」
別に今夜、あの話をしなければいけないわけではなかった。だが、こうと決めたのなら、早い方が良いのも確かだ。引き延ばせば引き延ばすほど、心は鈍り言いにくくなるだろうことは判っていた。
「うん? 何だ」
新聞に視線を向けたまま返事が返ってきた。
「大切な話よ」
紗英子の口調に何かただならぬものを感じ取ったのか、直輝は新聞を大雑把に畳み、脇へ寄せた。
食後のコーヒーはリビングでと決まっている。イブのために焼いたブッシュ・ド・ノエルもクリスマスが終わる前にちゃんと今夜、食べたし、シャンパンも開けて、他のご馳走も何とか片付いた。
