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願わくば、いつまでもこのままで

第9章 とまれない、とまらない



大通りに出ると

いつもより人の量を感じた。


帰宅途中のサラリーマンの姿が

ちらほらと見える。





「てか、比奈ちゃん歩いてきたの?」



「まさかっ、バスだよ。バス」




「ああ……じゃあ、帰りも?」




「え、いや……んと……」





もしここで
バスで帰ると言ってしまったら

陽君とはバス停でお別れ……?





「……買い物」



「え?」



「夕飯の、買い物……確かまだなはず
陽君、付き合ってくれる?」



適当に思いついた口実に対し

彼は顎に手を添えて
「うーん」と唸った。





「…いやだ」




顔を上げた。



前を向く端正な横顔を見て

目線を戻す。





「そっか、しかたないね」




残念、と私は諦める。


ここまでか……と。





「買い物は、しなきゃいけないの?」




また顔を上げると、
今度は端正な顔は私を見ていた。





だめだな


陽君の瞳は

だめ



一度あうと


なかなか離せないんだもの





「少し距離あるけど歩くのはだめかな
送らせてよ、家まで」




言葉が出なくて

静かにうなずいた。




すると陽君の目元が少し緩んで

小さく口角があがって


きれいだった、とても



その時だけのきれいな表情だった







私はつい見惚れてしまって




「比奈ちゃん?」


「えっ、あ……
ごめんなさい、ぼーっとしてた…」



私はパッと顔をそらす。






触れたい





そう思った。




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