
願わくば、いつまでもこのままで
第9章 とまれない、とまらない
一瞬
視界が歪むかと思った。
「比奈ちゃん、どうしたの?」
「え……なんで、そんなこと聞くの?」
ぐっと零れそうになったものを堪え
あからさまに作り笑うこともせず
依然私は彼の瞳を見つめている。
だが
耐えられないとでもいうように
陽君の瞳が先にわきにそれた。
「……もう、こんな時間か」
わざとらしく
壁にかかっている時計を見る目の前の男の合図を私は察した。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「うん」
立ち上がり玄関で靴を履く。
顔を上げるとすぐそこに
愛しい人の顔。
ここで帰ると
しばらく彼に会うことはないのか
……名残惜しい
帰りたく、ない
なんて、思った時点でいけないわ
私は分かりやすい表情だったのかな
陽君は少し黙っていたが
何も言わないまま自分も靴を履き
扉を開けた。
「そこまで、送ってくよ」
ドキッ__
珍しくクールな顔の陽君に
少しときめきのようなものを感じた
「そこまでって、どこまで?」
「えっ……それは…
… 比奈ちゃんが、望むとこまで」
「そしたら……家まで、だめ?」
少し甘えたくなってしまった
今日は気持ちが
たかぶっているのかもしれない
もう少し……一緒にいたくて
「ん。了解しました」
外はいつのまにか夕暮れが過ぎていて
外灯で青いとも見える
薄暗い夜空がひろがっていた。
