
願わくば、いつまでもこのままで
第9章 とまれない、とまらない
「……それにしてもいいよなぁ
あんな奥さん俺も欲しいよ
喧嘩とかもなくって
夫のことを一番に考えて……」
同僚の言葉に
反応して目が見開いた。
俺はついぼそっと
「……だといいんだけどな」
と口に出す。
「え?何だそれ
なんか、あったのか?」
友人でもある同僚は見逃しはしなかった。
「いや……なあ、知ってるか
俺ってさ、兄貴なんだよ」
「は?」
「つまりさ、あいつより歳上なんだよ
歳上は歳下より
いろいろと知ってるもんだよな」
「お前さ、分かりやすく言えよ
独り言じゃねぇんだぞ」
「悪い悪い
まあ、言ってしまうとだな……」
眉を寄せる同僚に
笑い声を含んで謝り説明しようとした。
が、
言葉が途切れた。
反対側の歩道
見えてしまった。
動揺が走り出した。
俺の名前を呼ぶ同僚の声を振り払い
駆け出したものの
すぐに止まった
周りが見えていなかった
気づいた時には
車道に飛び出し
振り返った瞬間宙を舞い
自分の状況を理解するには
充分すぎる衝撃と痛みを得て
俺の身体は地におちた。
「あ、あああっ
かっ、か、和斗ーっ!!!」
なんでだ
なんであいつらが
なんで
お前ら手を繋いで
なあ
やっぱりそうなのか
そうなったのか
俺は知っている
やっぱり
お前らは
止められなくて…
比奈
陽
俺は
……
