
願わくば、いつまでもこのままで
第1章 俺と兄とその嫁さん
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「それじゃあ陽君、またね」
「……じゃあ、また」
あれから気づいたら2時間も過ぎていた。
そりゃ4月だし、子供じゃないけど
だからといって、そんな夫のいない人妻の家に2人で長くはいられない。
ばいばいとドアの内側から手を振る比奈ちゃんを背に
俺はマンションの階段へ歩いていった。
階段を下りる前に301号室を見たら
まだ比奈ちゃんはこっちを見ていた。そして俺の視線に気づき、ニコッと笑った。
俺は急いで階段を駆け下りた。
もしかしたら比奈ちゃんは上で俺の変な行動に首を傾げてるかもしれない。
なんで俺、振り返ったんだろ。
俺は兄貴よりも子供だから
あの笑顔を見た時、一言思った。
好きだ
素直にその一言が頭の中に落ちてきた。
「またね」って比奈ちゃんは言ったけど
俺、ここに来ちゃだめなんだよ。
ドンッ
階段を駆け下りたところで誰かにぶつかった。
「あっすいません」
「いえ、こちらこそ……って、お前陽じゃないか」
えっ……、驚いて顔を上げると、そこには俺の嫉妬の対象がいた。
「あ、兄貴……」
