
願わくば、いつまでもこのままで
第1章 俺と兄とその嫁さん
目の前にいたのはスーツを着た兄貴だった。
「なんで、どうしてここにいるんだよ……仕事は?」
「ちょっと物を取りに帰ってきたんだよ、お前こそ今日もウチに来ていたのか」
「あぁ、まぁね」
びっくりした……さっきまで比奈ちゃんへの想いが頭の中にあったから、つい動揺しすぎたな。
「それにしてもお前に会うのは久しぶりだな、元気にやってるか?」
「見ての通り、兄貴こそ最近仕事忙しいらしいね」
目の前でニコニコ笑う兄貴を俺は少し睨みつけるように見ていた。
本当は俺だってそんなことしたくないのに。
気持ちからか、ついそうしてしまう。
自分が……嫌になるよ。
「まぁぼちぼちだ」
「そっか、じゃあ俺もう帰るから。じゃあね!」
「あっまたいつでもウチに来いよ」
兄貴の声を背に俺は駐輪場へ走り、バイクに乗ってマンションを出た。
________...
ドアを開けて中に入ると
殺風景なウチと比べるように兄貴達の家の中が頭に浮かんだ。
整理整頓され、綺麗に飾られた部屋。あの玄関。
所々に住んでる人の性格が写し出されたあの家が
好きだけど
嫌いだ
敷いたままの布団へ倒れこむと、すぐに眠気が襲ってきた。
もう今日はこのまま寝ちまお……
俺が眠りに堕ちるのに、そこまで時間はかからなかった。
