夢のうた~花のように風のように生きて~
第3章 手折られた花
定市が口の端を引き上げた。
「今夜は威勢が良いな。この前までは、泣いてばかりいたのにな」
まるで馬鹿にしたような言い方に、お千香はムッとした。
「お部屋にお帰り下さい」
お千香が冷然と言うと、定市が肩をすくめた。
「ここは、女房の寝間だぜ。亭主の私が来たって、別段誰に咎められるとも思わねえがな。そろそろ女房の勤めを果たしてくれても良い頃だろう?」
「私は夜伽のお相手はできないと何度も申し上げたはずです」
お千香がきっとして言うと、定市が笑った。
「精一杯強がってみせても、震えてるぞ?
お前はやっぱり可愛いな」
お千香は悔しかった。この男に自分は端から馬鹿にされている。
「お遊びはここまでだ、世間知らずのお嬢さん」
口調がガラリと変わった。いつになく凄みのある物言いに、お千香は怯えた。それでも、怯えを悟られまいと、懸命に恐怖に耐えた。
唐突に抱き寄せられ、お千香は驚愕に身を強ばらせた。
「な、お千香。判ってくれ、お前に惚れてるんだ。ずっとお前だけを見てきたんだよ。黙って大人しく私のものになれ」
「い、いやーっ」
お千香は必死に手足を動かした。
「お前の身体、やわらかいなあ。それに、良い匂いだ。ずっと長い間、こうやって、お前を腕に抱く日が来るのを待ってたんだ」
耳許を吐息混じりの声がくすぐり、お千香は嫌悪感に寒気がした。
「放して」
お千香は死に物狂いで暴れた。その拍子に、何とか辛くも定市の手から逃れることができた。
「おみつ、来て、ねえ、おみつ」
混乱状態のあまり、おみつが今夜はいないことも忘れ果ててしまっていた。
「助けて、おみつ」
夢中で呟くお千香を、定市が薄笑いを浮かべて見ている。
「いつまでも、ねんねだな。乳母がいないと、そんなに心細くてたまらないのか」
まさかおみつがおらぬことを見計らって、定市が寝所に忍び入ってきたとまでは考えもしなかった。
「今夜は威勢が良いな。この前までは、泣いてばかりいたのにな」
まるで馬鹿にしたような言い方に、お千香はムッとした。
「お部屋にお帰り下さい」
お千香が冷然と言うと、定市が肩をすくめた。
「ここは、女房の寝間だぜ。亭主の私が来たって、別段誰に咎められるとも思わねえがな。そろそろ女房の勤めを果たしてくれても良い頃だろう?」
「私は夜伽のお相手はできないと何度も申し上げたはずです」
お千香がきっとして言うと、定市が笑った。
「精一杯強がってみせても、震えてるぞ?
お前はやっぱり可愛いな」
お千香は悔しかった。この男に自分は端から馬鹿にされている。
「お遊びはここまでだ、世間知らずのお嬢さん」
口調がガラリと変わった。いつになく凄みのある物言いに、お千香は怯えた。それでも、怯えを悟られまいと、懸命に恐怖に耐えた。
唐突に抱き寄せられ、お千香は驚愕に身を強ばらせた。
「な、お千香。判ってくれ、お前に惚れてるんだ。ずっとお前だけを見てきたんだよ。黙って大人しく私のものになれ」
「い、いやーっ」
お千香は必死に手足を動かした。
「お前の身体、やわらかいなあ。それに、良い匂いだ。ずっと長い間、こうやって、お前を腕に抱く日が来るのを待ってたんだ」
耳許を吐息混じりの声がくすぐり、お千香は嫌悪感に寒気がした。
「放して」
お千香は死に物狂いで暴れた。その拍子に、何とか辛くも定市の手から逃れることができた。
「おみつ、来て、ねえ、おみつ」
混乱状態のあまり、おみつが今夜はいないことも忘れ果ててしまっていた。
「助けて、おみつ」
夢中で呟くお千香を、定市が薄笑いを浮かべて見ている。
「いつまでも、ねんねだな。乳母がいないと、そんなに心細くてたまらないのか」
まさかおみつがおらぬことを見計らって、定市が寝所に忍び入ってきたとまでは考えもしなかった。