夢のうた~花のように風のように生きて~
第3章 手折られた花
お千香の我慢もそろそろ限界だった。
「おみつ―」
涙を溢れさせながら、隣の部屋へと続く襖に取りすがったお千香を定市が再び羽交い締めにしようとする。
「放してっ、触らないで」
お千香は泣きながら、定市の手を振り払った。
「良い加減にしろ。惚れた女だから、手荒なことはしたくねえと辛抱してるのが判らねえのか」
定市が焦れたように言った。
「来ないで。私に近づかないで」
お千香は飛びすさるようにして、定市から離れた。部屋の隅に逃げ込んだお千香を見て、定市が陰惨な笑いを浮かべた。
お千香は周囲を見回した。傍に書き物をするための小机が見えた。その上にあった文箱を掴み、定市に向かって投げつけた。定市は笑いながら、器用にひょいと身をかわして避けた。
それでも、定市はじりじりと間合いを詰めてくる。お千香は恐怖のあまり、気が変になりそうだった。
文箱の次は硯、筆ととにかく眼に付く物を取っては次々に投げつける。が、直に投げつける物もなくなり、お千香は蒼白になった。
定市がまるで獲物を追い詰めるように直前まで近づいている―。
それでも何か逃れるすべはないかと、周囲を見回していると、突然、手首を物凄い力で握られた。
「もう、これで鬼ごっこはおしまいかい?
全く世話を焼かせるお嬢さんだぜ。最初は怖いのは誰でも同じさ、だが、直に良い気分にさせてやるから、大人しく言うとおりにするんだ。今夜一晩私と過ごしたら、明日からは夜が来るのが待ち遠しくてならなくなるさ」
―このひとは何を言ってるの?
お千香は定市の科白が理解できなかった。
男女の事については何も知らないのだから、無理はない、
「な?」
覗き込まれたかと思うと、顔が近づいてきた。
「いやっ」
お千香は定市の胸を思い切り手で突っ張った。
「あなたなんか嫌い。嫌いよ。触れられるのもいや」
「何だと?」
「おみつ―」
涙を溢れさせながら、隣の部屋へと続く襖に取りすがったお千香を定市が再び羽交い締めにしようとする。
「放してっ、触らないで」
お千香は泣きながら、定市の手を振り払った。
「良い加減にしろ。惚れた女だから、手荒なことはしたくねえと辛抱してるのが判らねえのか」
定市が焦れたように言った。
「来ないで。私に近づかないで」
お千香は飛びすさるようにして、定市から離れた。部屋の隅に逃げ込んだお千香を見て、定市が陰惨な笑いを浮かべた。
お千香は周囲を見回した。傍に書き物をするための小机が見えた。その上にあった文箱を掴み、定市に向かって投げつけた。定市は笑いながら、器用にひょいと身をかわして避けた。
それでも、定市はじりじりと間合いを詰めてくる。お千香は恐怖のあまり、気が変になりそうだった。
文箱の次は硯、筆ととにかく眼に付く物を取っては次々に投げつける。が、直に投げつける物もなくなり、お千香は蒼白になった。
定市がまるで獲物を追い詰めるように直前まで近づいている―。
それでも何か逃れるすべはないかと、周囲を見回していると、突然、手首を物凄い力で握られた。
「もう、これで鬼ごっこはおしまいかい?
全く世話を焼かせるお嬢さんだぜ。最初は怖いのは誰でも同じさ、だが、直に良い気分にさせてやるから、大人しく言うとおりにするんだ。今夜一晩私と過ごしたら、明日からは夜が来るのが待ち遠しくてならなくなるさ」
―このひとは何を言ってるの?
お千香は定市の科白が理解できなかった。
男女の事については何も知らないのだから、無理はない、
「な?」
覗き込まれたかと思うと、顔が近づいてきた。
「いやっ」
お千香は定市の胸を思い切り手で突っ張った。
「あなたなんか嫌い。嫌いよ。触れられるのもいや」
「何だと?」