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夢のうた~花のように風のように生きて~

第3章 手折られた花

 定市の眼に酷薄な光が宿った。
「もう一度言ってみろ」
 まるで荷物のように横抱きにされると、お千香はそのまま布団の上に投げおろされた。ひと月前よりも更に手加減のない荒々しさだった。
「止めて、お願いだから、こんなこと止めて」
 お千香は怯え切った瞳で定市を見上げた。
「あ―」
 唇を塞がれ、息もできない。舌が侵入してこようとするのを必死で口をつぐんだ。
 定市が舌打ちを聞かせたかと思うと、ピリッと衣(きぬ)の裂ける嫌な音が夜陰に響いた。
 信じられなかった。無表情に自分の身にまとった寝衣を引き裂いてゆく男の顔が醜く歪んで、獣のように見えた。
 紐が解かれ、その紐で両手を持ち上げた格好で縛められた。ひんやりとした夜気に素肌がさらされ、余計に身体が震える。
「お千香、間抜けにもお前の親父もお前も大きな間違いをしてることに気づいていなかったんだな。お前の身体は、男でもなければ女でもない。お前はそう思ってたんだろうが、ひっくり返せば、それは、お前が男でもあり女でもあるってことなんだぜ。お前の身体を最初に見た時、私はすぐにお前を自分のものにすることもできた。お前は女として、私を受け容れることができるんだ。それをしなかったのは、私がお前に惚れてたからだ。できれば、力づくや無理強いという形でお前を抱きたくはなかった。だが、もう偽善者ぶるのは止めた。お前がそこまで私を嫌いだというのなら、私は私のやりたいようにやる。どうせ嫌われてるのなら、何をどうしようと同じだからな」
 淡い闇にほの白く浮かび上がったお千香の裸身は、どこまでも清らかであった。そう、丁度、思春期を迎えたばかりの少女のような初々しい裸体である。乳房はまだほんの少し膨らみかけたばかりであった。
 ひと月前、お千香の裸体を見た夜、定市は、お千香が中性体、いわゆる両性具有であることを知った。父の政右衛門があれほどまでに夫婦の交わりはできぬというからには、何か身体に重大な秘密があるのではないか―と考えたのだ。単に健康上の理由だけで、ああまで頑なに夫婦の契りを禁ずるとは思えなかった。

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