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夢のうた~花のように風のように生きて~

第3章 手折られた花

 確かに初めて見たときは愕いたものの、定市が見たところ、お千香の身体は男性よりは女性に近かった。中性体は時に男女の分化が進み、成長の途上で男性化、女性化することも珍しくはないという。恐らく、お千香は長ずるにつれ、より女性化しているに相違ないと思われた。ゆえに、定市の見たお千香の身体は極めて稚くはあったが、明らかに女性の特徴を強く備えていた。
 もう数年待てば、十分に一人前の女性として成熟することも可能のように思われたのだ。中性体の話は定市も聞いたことはあった。非常に稀なことではあるが、時として、そのように男でもあり女でもある両方の性を有した赤ん坊が生まれてくることがある、と。
 しかし、まさか幼い頃から一途に恋い焦がれていたお千香がそうであったとは想像だにしなかった。
 定市がお千香に言ったのは嘘ではない。彼はあくまでも待つつもりでいた。数年というのは自制できるかどうかは自信はないが、少なくとも一年や二年なら辛抱するつもりであった。お千香がもう少し身も心も大人になった時、改めて夫婦の契りを結べば良い。そんな風に考えていた。
 だが。
 何がどうあろうと、あの娘は定市になびく気はないらしい。自分が何故、そこまで嫌われるのか、定市には皆目判らなかった。これでも、女にはモテる方だと思う。これまでにも寄ってきた女がいなかったわけではなく、真面目一途だと思われているが、遊廓で女郎を抱いたことがないわけでもないのだ。
 ひと月前、お千香から離縁して欲しいと言われた時、定市はもう我慢するのを止めた。
 最初は、お千香が自分を追い出そうとしているのかと勘ぐったけれど、どうやら、お千香は本気で美濃屋を出ていこうと考えているようだった。定市はそれを知った時、怒り心頭に発した。
 お千香が自分を追い出しにかかっていると思うより、何倍も腹が立った。生まれ育った美濃屋も何もかもを捨ててまで、お千香は定市を拒もうとしている。そこまで自分は嫌われているのかと思えば、惚れ抜いているだけに、かえって憎いと感じた。
 お千香には最早、何をどう言おうと、定市を受け容れる気はないのだ。ならば、いっそのこと、どれだけ嫌がろうと泣き叫ぼうと、自分のものにしてしまえば良いのだと思った。

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