
夢のうた~花のように風のように生きて~
第4章 運命の邂逅
「ちぇっ、つくづく損な役回りだよな。こんな嫌な想いをするくれえなら、引き受けなきゃア良かった」
徳松はまだぶつくさこぼしながら歩いた。
他人に頼み込まれれば、否とは言えないこの性分が我ながら恨めしい。
そのときのことだ、ふと前方に何か横たわるものを見つけた。
「何だ何だ?」
徳松は垂れ込める霧をかき分けるようにして進み、眼を凝らした。道端に倒れているのは物ではなく、人間であった。
「お、おい。今度は猫じゃなくて、行き倒れかよ。冗談じゃねえや」
しかし、そのまま見ぬふりをすることができないのが徳松の徳松らしいところであった。
徳松は倒れている者の傍まで来ると、足許を見下ろした。深い朝靄の中に美しい娘が横たわっていた。徳松は恐る恐る、しゃがみ込んで娘の顔を覗き込んだ。耳を口許に近づけると、どうやら呼吸はしているようで、心底からホッとする。捨て猫を再び捨てる罪深い行為の後、今度は行き倒れの死人に遭遇するという状況は、できれば避けたい。
事実、初めは、この気の毒な娘が死んでいるのかと思ったほど、娘は身じろぎもせず顔色も紙のように白かった。
が、徳松はこんな状況でありながら、しばし娘に見惚れた。長い睫が濃い翳を落とし、透き通るようなすべらかな白い肌をしている。間近で見ると、眼の醒めるような美貌であった。
徳松の視線が娘の全身を捉え、その整った顔が曇った。娘の身につけているのは薄い寝衣一枚きりであったが、その寝衣は見るも無惨な有様であった。片袖は千切れ、至るところが引き裂かれ破れている。緩んだ胸許や首筋に強く吸われた―恐らくは接吻の跡だろう―が刻みつけられていた。
流石に、こうしたことには疎い徳松でさえ、この美しい娘が何者かに犯されたのだという事実を嫌でも知ることになった。娘の白い頬には幾筋もの涙の跡があった。
「何て酷えことをしやがるんだ」
徳松はまるで我が事のように腹が立った。無抵抗な若い女を力尽くで思いどおりにし、慰みものにする輩がいるなんて、同じ男として信じられない。
徳松はまだぶつくさこぼしながら歩いた。
他人に頼み込まれれば、否とは言えないこの性分が我ながら恨めしい。
そのときのことだ、ふと前方に何か横たわるものを見つけた。
「何だ何だ?」
徳松は垂れ込める霧をかき分けるようにして進み、眼を凝らした。道端に倒れているのは物ではなく、人間であった。
「お、おい。今度は猫じゃなくて、行き倒れかよ。冗談じゃねえや」
しかし、そのまま見ぬふりをすることができないのが徳松の徳松らしいところであった。
徳松は倒れている者の傍まで来ると、足許を見下ろした。深い朝靄の中に美しい娘が横たわっていた。徳松は恐る恐る、しゃがみ込んで娘の顔を覗き込んだ。耳を口許に近づけると、どうやら呼吸はしているようで、心底からホッとする。捨て猫を再び捨てる罪深い行為の後、今度は行き倒れの死人に遭遇するという状況は、できれば避けたい。
事実、初めは、この気の毒な娘が死んでいるのかと思ったほど、娘は身じろぎもせず顔色も紙のように白かった。
が、徳松はこんな状況でありながら、しばし娘に見惚れた。長い睫が濃い翳を落とし、透き通るようなすべらかな白い肌をしている。間近で見ると、眼の醒めるような美貌であった。
徳松の視線が娘の全身を捉え、その整った顔が曇った。娘の身につけているのは薄い寝衣一枚きりであったが、その寝衣は見るも無惨な有様であった。片袖は千切れ、至るところが引き裂かれ破れている。緩んだ胸許や首筋に強く吸われた―恐らくは接吻の跡だろう―が刻みつけられていた。
流石に、こうしたことには疎い徳松でさえ、この美しい娘が何者かに犯されたのだという事実を嫌でも知ることになった。娘の白い頬には幾筋もの涙の跡があった。
「何て酷えことをしやがるんだ」
徳松はまるで我が事のように腹が立った。無抵抗な若い女を力尽くで思いどおりにし、慰みものにする輩がいるなんて、同じ男として信じられない。
