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夢のうた~花のように風のように生きて~

第4章 運命の邂逅

「いやーっ」
 叫んで逃げ出そうとするのを、徳松が後ろから抱き止めた。
「放して、いやっ」
 お千香は余計に恐慌状態に陥った。
「そんな身体でどこへ行こうってえんだ?」
 徳松が優しく言い聞かせてみても、なおもお千香は懸命に泣きながら抵抗を続けた。
「大丈夫だよ、俺はお前に何も危害を加えたりしねえから」
 根気よく言い聞かせて待つ中に、お千香は次第に泣き止んで落ち着きを取り戻していった。
「ごめんなさい、私―、折角親切に助けて頂いたのに」
 お千香はうなだれて言ったが、そのか細い身体はまだ小刻みに震えていた。
 徳松は今までにこれほどの怯えようを見たことがない。何がどうして、ここまでこの娘を怯えさせたのか。考えたくもないことだが、娘をこれほどに怯えさせているのは、娘がその身体に受けた酷い傷跡と無関係ではないだろう。
 徳松の耳奥で、相店の老医者伊東竹善の科白がありありと蘇る。
 娘を裏店まで連れ帰った徳松は、すぐにその脚で竹善を訪ね、一緒に来て貰った。竹善は娘をひととおり診察した後、徳松に語ったのだ。
―可哀想に、まだ生娘の身で、さんざん男に責め立てられたんじゃろう。
 竹善は娘の身体に残った陵辱の酷たらしさについて憤りを禁じ得ないように言った。
 娘の身体には、あちこちに愛撫の名残があったが、殊に烈しいのは下半身であった。幾度も容赦なく貫かれたせいで、滅茶苦茶になっているというのだ。
―皮膚は避け、血が流れておった。当分はかなり痛むはずじゃ。完治するのにはひと月はかかろうて。
 また、竹善は娘が完全な女性の身体ではない―とも言った。
―中性体、古くは仮半性陰陽とも申すが、極めて珍しいものだ。わしも六十年町医者をして、様々な患者を診てきたが、本当に見るのは初めてじゃよ。
 徳松は竹善の言葉を改めて思い出して、暗澹たる気持ちになった。
 その合間に、娘が床の上に身を起こしていた。
「本当にありがとうございました。ご恩は忘れません」

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